「てこの計算、どの数字とどの数字をかければいいのか分からない」
「動滑車で力が半分になる理由を聞かれると答えられない」
「輪軸が出てきた瞬間にあきらめてしまう」
中学受験の理科で、てこ・滑車・輪軸(力のつり合い)は物理分野の最頻出テーマです。計算問題の配点が大きく、難関校ほど複雑な組み合わせを出してきます。ところが公式だけを覚えた子は、支点の位置が変わったり、棒やひもの重さが登場したりすると手が止まりがちです。
じつは、てこも滑車も輪軸も、使う考え方はたった2つです。
「回転させる力=重さ×支点からの距離」と「1本のひもにかかる力はどこでも同じ」だけです。
本記事では、てこの3点(支点・力点・作用点)と道具の分類、つり合いの計算のしくみ、定滑車・動滑車、組み合わせ滑車、輪軸、そしてすべてをつらぬく「仕事の原理」までを、塾講師の視点で順番に整理します。つり合いの図にはすべて数字を入れているので、読みながらつり合いを確かめられます。
- 【まず結論】力学の2本柱:「重さ×支点からの距離」と「1本のひもの力はどこも同じ」
- てこの3点(支点・力点・作用点)と、はさみ・せんぬき・ピンセットの3分類
- てこのつり合いの計算のしくみ(左回り=右回り)と、棒に重さがあるときの考え方(重心)
- 「分からない力の場所を支点に選ぶ」という計算のコツ
- 定滑車と動滑車のちがい(向きを変える/力を半分にする)と、動滑車で力が半分になる理由
- 組み合わせ滑車を「ひもを数える」だけで解く方法
- 輪軸のしくみ(てこの回転版)と計算のしかた
- 力で得した分だけ距離で損をする「仕事の原理」
- 理解度を確かめる確認クイズと、暗記に頼らないコツ
この記事を書いた人
服部貴哉
受験アドバイザー
神奈川大学附属中高→慶応義塾大学法学部→総合商社→LEFYにて中学受験および中高一貫校生をサポート。サピックス・グノーブルをはじめ大手塾通塾生の指導経験が豊富。
まず結論!力学の考え方は2つだけ
細かい話に入る前に、結論からまとめます。てこ・滑車・輪軸の問題は、次の2つのルールの組み合わせでほぼ全部解けます。
力学の2本柱
※てこがつり合うのは、左回りに回そうとする力の合計=右回りに回そうとする力の合計のとき。滑車の問題は、ひもの力を書きこんで「上向きの力の合計=下向きの力の合計」を確かめれば解けます。なお、ひもの重さや摩擦は考えない(0とみなす)のが中学受験の約束です。
公式が2つしかないのに難しく感じるのは、問題ごとに見た目が大きく変わるからです。だからこそ、式より先に「力の矢印を図に描きこむ」習慣が効きます。ここから、道具ごとに見ていきましょう。
てことは?(支点・力点・作用点)
てこは、棒を1点で支えて、小さな力を大きな力に変えたり、力の向きを変えたりする道具です。まず3つの点の名前を正確におさえましょう。
- 支点(してん)…棒を支えている、回転の中心になる点
- 力点(りきてん)…人が力を加える点
- 作用点(さようてん)…ものに力がはたらく点
身の回りのてこの道具は、どの点が真ん中にあるかで3種類に分類できます。これはそのまま知識問題として出ます。
てこの道具の3分類(真ん中に何があるか)
てこのつり合い:「重さ×支点からの距離」で考える
てこの計算の主役は、「回転させる力」=重さ×支点からの距離です。棒は支点を中心に回転しようとします。左回りに回そうとする力と、右回りに回そうとする力が等しいとき、棒はつり合って止まります。
てこのつり合い(左回り=右回りになっているか確かめる)
棒そのものに重さがある問題では、棒の重さが重心(太さが一様な棒なら真ん中)に集まっていると考えて、重心の位置に「棒の重さのおもり」を1個描き足します。これで、あとは同じつり合いの計算になります。
計算がラクになる支点の選び方
- 支点は「棒を支えている点」だけでなく、計算の中心として自分で選ぶこともできます。コツは、大きさの分からない力がかかっている点を支点に選ぶこと。支点からの距離が0になるので、その力は計算から消えて、式が一気に簡単になります。ばねはかりが2本出てくる問題などで威力を発揮します。
定滑車と動滑車:「向きを変える」と「力を半分にする」
滑車(かっしゃ)は、ひもをかけて使う輪の道具で、2種類あります。天井などに固定されて動かない定滑車(ていかっしゃ)と、ひもといっしょに動く動滑車(どうかっしゃ)です。役割がまったくちがいます。
定滑車と動滑車(100gのおもりを持ち上げる)
組み合わせ滑車は「何本のひもで支えているか」を数える
定滑車と動滑車が組み合わさった問題も、やることは同じです。手順は3つ。
- ①ひもをなぞる:1本につながっているひもには、どこでも同じ力がかかる(定滑車は力の大きさを変えない)
- ②おもり(と動滑車)を支えているひもの本数を数える
- ③重さ÷本数が、引く力になる(動滑車1個なら2本で÷2、動滑車が増えれば本数も増える)
組み合わせ滑車(定滑車1個+動滑車1個で100gを持ち上げる)
注意点が一つ。この「本数で割る」がそのまま使えるのは、1本のひもが装置全体を通っているタイプです。動滑車ごとに別のひもがかかっているタイプ(力が半分の半分…と重なっていく装置)では、手順①に戻って、ひも1本ずつ順番に「1本のひもの力は同じ」を当てはめて力を求めていきます。
滑車そのものに重さがある問題では、動滑車の重さをおもりに足してからそのひもの本数で割ります。たとえば100gのおもりを、重さ20gの動滑車1個で持ち上げるなら、(100+20)÷2=60gで引けます。定滑車の重さは、天井が支えてくれるので引く力には関係しません。
輪軸:てこが「回転」の形になっただけ
輪軸(りんじく)は、半径のちがう2つの輪を同じ軸に固定した道具です。ドライバーの柄や自転車のペダルなど、身の回りの「回す道具」の原理になっています。見た目は新しくても、正体はてこと同じ。「重さ×支点(軸)からの距離」がそのまま使えて、距離のかわりに半径を使うだけです。
輪軸のつり合い(半径10cmの輪に90g、半径30cmの輪を引く)
仕事の原理:力で得した分、距離で損をする
ここまでの道具に共通する大事なルールがあります。動滑車は力が半分になるかわりに引く長さが2倍、輪軸は力が3分の1になるかわりに引く長さが3倍でした。つまり、どんな道具を使っても「力×動かす距離」は変わりません。これを仕事の原理といいます。
仕事の原理(動滑車で100gを1m持ち上げる例)
※「力で得する道具は、必ず距離で損している」。この見方を知っていると、複雑な装置の問題でも「引く力が5分の1なら、引く長さは5倍のはず」と検算に使えます。
理解度チェック!確認クイズ
ここまでの内容が身についたか、クイズで確認しましょう。答えはタップ(クリック)で開きます。
てこがつり合う条件は?
A. 支点を中心に、左回りに回そうとする力(重さ×支点からの距離)の合計=右回りの合計になること。
支点から左4目盛に30gをつるした。右3目盛におもりをつるしてつり合わせるには何g?
A. 40g。30×4=120を、右回り□×3=120にするので120÷3=40g。
せんぬきは、支点・力点・作用点のどれが真ん中?
A. 作用点。作用点が支点の近くにあるので、小さな力でせんを抜けます。ピンセットは力点、はさみは支点が真ん中です。
動滑車を使うと力が半分になるのはなぜ?
A. おもりと動滑車を2本のひもで支えるから。1本のひもにかかる力はどこでも同じなので、1本あたり半分になります。
重さ20gの動滑車1個で100gのおもりを持ち上げる。引く力は?
A. 60g。(100+20)÷2=60。動滑車の重さはおもりに足してから本数で割ります。
定滑車を使う目的は?
A. 力の向きを変えること。力の大きさと引く距離は変わりません。「上に引く」を「下に引く」に変えられるのが便利な点です。
半径40cmと8cmの輪軸。小さい輪の100gを支える力は?
A. 20g。100×8=800、□×40=800より20g。半径の比5:1のぶん、力は5分の1ですみます。
動滑車でおもりを1m持ち上げるとき、ひもを引く長さは?
A. 2m。力が半分になるかわりに距離は2倍。「力×距離は変わらない」のが仕事の原理です。
力学の覚え方・つまずき対策
- 式より先に、力の矢印を全部描く:どこに・どの向きに・何gか。図が完成すれば式は半分できている。
- てこは「重さ×距離」のペア:重さどうし・距離どうしをかけない。単位のちがう2つをかけるのがポイント。
- 滑車は「ひもを数える」:1本のひもの力はどこも同じ。おもりを支える本数で割る。滑車の重さは先に足す。
- 輪軸はてこ:距離のかわりに半径。新しい公式は増えていない。
- 検算は仕事の原理:力で得した倍率と、距離で損する倍率が一致しているか確かめる。
まとめ
- てこの3点は支点・力点・作用点。道具は「どれが真ん中か」で3分類(はさみ=支点・せんぬき=作用点・ピンセット=力点)。
- つり合いは「重さ×支点からの距離」で、左回りの合計=右回りの合計。棒の重さは重心に描き足す。
- 大きさの分からない力がある点を支点に選ぶと、その力が計算から消えて式が簡単になる。
- 定滑車=向きを変える(力はそのまま)、動滑車=力が半分(2本のひもで支えるから)。
- 組み合わせ滑車は「支えているひもの本数」で割る。動滑車の重さはおもりに足してから。
- 輪軸はてこの回転版。重さ×半径でつり合いを考える。
- 仕事の原理:力で得した分、距離で損する。「力×距離」はどんな道具でも変わらない。
力学は「覚える」より「図を描く手順を固定する」ほうが、複雑な装置の問題に強くなります。同じ理科の計算単元では、電流の解説記事や南中高度の解説記事も同じ方針で解説しています。
よくある質問
てこの支点・力点・作用点とは何ですか?
支点は棒を支える回転の中心、力点は人が力を加える点、作用点はものに力がはたらく点です。道具によって3点の並び順がちがい、「どの点が真ん中にあるか」で、はさみ型(支点)・せんぬき型(作用点)・ピンセット型(力点)の3種類に分類されます。
てこのつり合いの式はどう立てますか?
支点を決めて、左回りに回そうとする「重さ×支点からの距離」の合計と、右回りの合計が等しいという式を立てます。おもりが3個以上あっても、回る向きごとに足し合わせるだけです。重さどうし、距離どうしをかけないように注意してください。
動滑車を使うと力が半分になるのはなぜですか?
おもりと動滑車を2本のひもで支えているからです。1本のひもにかかる力はどこでも同じなので、全体の重さを2本で分け合い、1本あたり(=引く力)は半分になります。そのかわり、ひもを引く長さは2倍になります。
定滑車は何のために使うのですか?
力の向きを変えるためです。力の大きさも、引く距離も変わりません。高いところのものを「下に引いて」持ち上げられるようにするのが役割で、旗のポールなどに使われています。
輪軸の問題はどう計算しますか?
てこと同じで、軸を支点として「重さ×半径」が左回りと右回りで等しいという式を立てます。たとえば半径10cmの輪に90gをつるすなら、半径30cmの輪は90×10÷30=30gの力で支えられます。ひもを引く長さは半径の比のぶん長くなります。
ピンセットは力で損するのに、なぜ使うのですか?
力点が真ん中にあるてこは、加えた力より作用点の力が小さくなるかわりに、作用点を細かく・大きく動かせるからです。小さなものをやさしくつまむには、力の強さより動きの細かさが大事なので、あえて力で損する形が選ばれています。
仕事の原理とは何ですか?
てこ・滑車・輪軸などの道具を使っても、「力×動かす距離」の大きさは変わらないという法則です。動滑車で力が半分になれば引く距離は2倍、輪軸で力が3分の1になれば引く距離は3倍になります。「力で得した分、距離で損する」と覚えると、答えの検算にも使えます。
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