サピックスの基礎トレ(基礎力トレーニング)は、毎月1冊配られる算数のドリルで、1ページ10問を毎日解くのが標準の使い方です。効果を分けるのは、やるかどうかではありません。間違えた問題をその場で直し、間違いの記録から「穴の単元」を見つけて手当てするところまでやるかどうかです。毎日こなしているのに成績に結びつかない場合、ほぼ確実にここが抜けています。
この記事では、サピックス生を日常的に教えている個別指導塾の立場から、基礎トレが「作業」になってしまう典型パターンと、効果が出る回し方、学年別の付き合い方まで整理します。
- 基礎トレの役割と、数日かけて同じ問題が数字を変えて出てくる教材の作り
- 学年別の問題数と所要時間の目安(4年生5分/5年生10分/6年生10〜15分)
- 毎日やっているのに効かない典型パターン4つ
- 効果が出る回し方(時間帯の固定・その場で解き直し・タイムと間違いの記録)
- 4年・5年・6年それぞれの付き合い方と、量を減らすときの削り方
- 基礎トレでは埋まらない「単元理解の穴」の見つけ方と対処

この記事を書いた人
山本航士
受験アドバイザー
聖光学院中高→慶応義塾大学経済学部→コンサルティングファーム→LEFYにて難関中学受験および中高一貫校生をサポート
基礎トレとは:毎日1ページを積み上げる算数ドリル
基礎力トレーニング(通称・基礎トレ)は、サピックスが毎月配布する算数の教材です。4年生から6年生まで、毎月1冊ずつ、合計36冊を積み上げていきます。1ページに計算問題と一行問題(文章題の基本形)が並び、1日1ページを毎日続ける前提で作られています。その月の学習内容に対応した問題が繰り返し形を変えて出てくるため、授業で習った解法を「反射で使える」レベルまで定着させるのが役割です。
もうひとつの役割は学習習慣です。毎日決まった時間に机に向かう起点として機能するので、基礎トレのリズムが崩れている家庭は、たいてい家庭学習全体のリズムも崩れています。逆に言えば、家庭学習を立て直すとき、最初に戻すべきなのが基礎トレです。私たちが「宿題が回らない」というご相談を受けたときも、まず確認するのは基礎トレが毎日できているかどうかです。
なぜ毎日やる必要があるのか
サピックスの授業は、計算のやり方そのものを丁寧に扱う時間が多くありません。カリキュラムが速く、「計算はできて当然」という前提で新しい単元が進んでいきます。その前提を家庭側で成立させるための教材が基礎トレです。つまり、基礎トレは授業の補助ではなく、授業が成り立つための土台という位置づけになります。
ここを取り違えて「余力があればやる宿題」の扱いにすると、算数が崩れます。実際、5年生で算数が急に苦しくなった子の家庭学習をたどると、その数ヶ月前から基礎トレが飛び飛びになっていることが本当に多いです。基礎トレは、やるかやらないかを毎日判断するものではなく、歯みがきと同じ枠に入れてしまうものだと考えてください。
教材の作り:数日かけて同じ問題が数字を変えて出てくる
基礎トレを「ただの計算ドリル」と思っていると見落とすのが、問題の並び方です。数日を1つのサイクルとして、同じ問題が数字を変えて繰り返し出てくる作りになっています(学年や時期によって変わります)。月の後半には、その月の内容から混ぜて出題される形になります。
この作りがわかると、日々の見方が変わります。初日に間違えた問題は、翌日も似た形で出てきます。つまり初日に理解しておけば、翌日は自力で解けて自信になる設計です。逆に、初日に間違えた問題を直さずに閉じてしまうと、翌日も同じところで止まり、それが数日続きます。同じ問題で何日も止まっている状態は、本人にとってかなりのストレスです。
そしてこの作りは、そのまま診断にも使えます。数日繰り返しているのに最終日にも間違えるなら、それは計算ミスではなく、その単元を理解していないということです。1日単位で見ていると「今日はミスが多かった」で流れてしまいますが、数日単位で見ると、ミスと理解の穴がはっきり分かれます。
学年で問題数も所要時間も変わる
学年が上がると、問題の重さが変わります。目安は次のとおりです。
| 学年 | 1日の問題の構成(目安) | 所要時間の目安 |
| 4年生 | 計算が2〜4問、一行問題が5〜6問 | 5分前後 |
| 5年生 | 計算が3問、一行問題が7問 | 10分前後 |
| 6年生 | 計算が3問程度、一行問題が7問程度(内容は入試水準に近づく) | 10〜15分 |
「基礎トレは5分で終わるもの」というイメージのまま5年生・6年生を迎えると、時間がかかることに親子で焦ります。問題数はほぼ同じでも、一行問題の中身が比や速さの応用に変わっていくため、時間が伸びるのは自然です。上の目安を大きく超えている場合だけ、量や進め方を見直してください。
基礎トレが「作業」になってしまう典型パターン
毎日やっているのに効いていない場合、次のどれかに当てはまっていることがほとんどです。
丸つけで終わり、間違い直しをしていない
いちばん多いパターンです。10問中8問正解で「今日はよくできた」と閉じてしまうと、間違えた2問は明日も間違えます。基礎トレの価値は正解した8問ではなく、間違えた2問のほうにあります。丸つけの直後に、間違えた問題をその場で解き直すまでがワンセットです。時間にして数分の差ですが、1ヶ月続くと定着度が大きく変わります。
前述のとおり、同じ問題は数日かけて数字を変えて出てきます。その場で直しておけば翌日は解けて、本人は「できるようになった」という感覚を得られます。直さずに進めば、翌日も同じところで止まって「またできなかった」が積み上がります。同じ教材で、自信が積み上がる子と削られる子に分かれる分岐点がここです。
ノートを使わず、答えだけを書いている
基礎トレは専用ノートに解くのが基本です。ところが、時間短縮のつもりで冊子に答えだけを書いたり、暗算で済ませたりしている子がいます。これをやると2つ損をします。ひとつは、間違えたときにどこで間違えたのかがわからないこと。答えだけでは、考え方が違ったのか計算を間違えたのかが判別できません。もうひとつは、途中式を書く習慣が育たないことです。
5年生以降の問題は、途中式を書かないと処理しきれない量になります。4年生のうちに暗算で乗り切れてしまうと、書く習慣がないまま重い問題に入ることになり、そこで急に点が崩れます。式を書くのは面倒に見えて、あとで、かなり効いてきます。
夜の疲れた時間に回して、雑になっている
塾から帰った後や宿題の最後に基礎トレを回すと、疲れでミスが増え、「ミスに慣れる」練習になってしまいます。計算の正確さを作る教材なので、頭がフレッシュな時間帯にやるのが合理的です。朝食の前後に固定している家庭がうまくいきやすいのは、このためです。
夜に回すと、もうひとつ問題が起きます。宿題が長引いた日に「今日は基礎トレなし」となり、そういう日が週に何度も出てくることです。1日の最後に置いたものは、忙しい日から順に消えていきます。毎日続けたいものほど、1日の先頭に置くようにしましょう。
溜めて、週末にまとめてやっている
3日分、5日分と溜めてまとめて解くと、「毎日少しずつ思い出す」という設計意図が消えて、ただの計算プリント集になります。同じ問題が数日かけて出てくる作りも、まとめて解けば単なる繰り返しになってしまい、間隔を空けて思い出す効果は得られません。
溜まってしまったときは、無理に全部消化しようとせず、今日の分から再開して、溜まった分は捨てるほうが立て直しは早いです。完璧に追いつこうとすると、再開そのものが億劫になります。3日分をまとめて解いた1回より、今日から毎日続く1ページのほうが価値があります。
効果が出る回し方
①時間帯を固定する(朝がおすすめ)
「いつやるか」を毎日考えること自体が負担になります。朝食前・登校前など、他の予定に侵食されない時間に固定してください。4年生なら5分前後、5年生でも10分前後なので、朝でも現実的に収まります。
固定するときのコツは、時刻ではなく「行動の直後」に紐づけることです。「7時から」ではなく「朝ごはんを食べ終わったら」「顔を洗ったら」のように、毎日必ず起きる行動の次に置くとお子さんも動きやすいです。また、声かけの回数も自然に減ります。
②丸つけ→その場で解き直し、までをワンセットにする
解き直しは「答えを写す」のではなく、もう一度自分の手で解くことが大切です。それでも解けなければ、解説を見て理解し、翌日にもう一度だけ解く。ここまでやって、初めて間違えた問題が資産になります。
丸つけを誰がやるかは、学年で変えるのが現実的です。4年生のうちは保護者がその場で丸をつけたほうが、直しまでの流れが途切れません。5年生からは本人に移していきますが、間違えた問題を直したかどうかだけは必ず見てあげてください。丸つけを本人に任せた瞬間に直しが消える、というのはよくある変化です。
③時間を記録する
毎日、かかった時間をノートの隅に書かせてください。1分単位で十分です。これだけで得られるものが2つあります。ひとつは、本人が速さを意識するようになること。もうひとつは、崩れの早期発見です。いつも8分の子が急に15分かかるようになったら、その月の単元でつまずいている合図です。
点数だけを見ていると、この変化に気づけません。満点でも時間が倍かかっているなら、それは「できている」状態ではなく、手間をかけて何とかしている状態です。テストのように時間制限がある場面では、そこから点が落ちます。
④わからない問題が出てきたときの対処
基礎トレは解説が詳しい教材ではありません。答えを見ても分からない問題が出てきたときに、どうするかを決めておかないと、そこで毎回止まります。
目安は3分です。3分考えて手が動かなければ、いったん飛ばして先に進みます。粘る練習は他の教材でやればよく、基礎トレで時間を溶かすのはもったいないです。飛ばした問題には印をつけておいて、その日のうちに解説を読むか、塾で質問するようにしましょう。
親が教えるかどうかは、無理のない範囲で構いません。ただし塾と解き方が違うと、子どもが混乱するので、教えるより「一緒に解説を読む」ほうが安全です。それでも分からない問題が週に何問も出るなら、その単元の理解が足りていないサインなので、基礎トレの中で解決しようとせず、テキストに戻ってください。
④間違いを記録して「穴の単元」を見つける
間違えた問題の番号と種類(割合、速さ、図形など)を簡単にメモしておくと、数週間で傾向が見えてきます。同じ種類の問題を繰り返し間違えているなら、それは計算ミスではなく単元の理解の穴です。穴はドリルの反復では埋まらないので、その単元だけテキストに戻って学び直す必要があります。
この「基礎トレで穴を見つけて、単元学習で埋める」接続ができると、基礎トレは診断ツールとして機能し始めます。毎月のテストを待たなくても、日々の10問で穴が見えるということです。テストの結果が出てから慌てて対処するのと、2週間前に気づいて手を打つのとでは、必要な時間がまったく違います。
⑤満点が続く・時間がかかりすぎる場合の調整
毎日ほぼ満点で目安の時間より早く終わるなら、タイムを縮める、途中式をきれいに書く、暗算で済ませていた工程を書き出すなど、負荷の方向を変えてください。量を増やすのではなく、質を上げるのがコツです。
逆に、目安を大きく超えて毎日つらい場合は、量を半分にしてでも「毎日続く」ことを優先します。半分にするなら、計算問題を残して一行問題を減らすほうが、崩れにくくなります。止まってしまうのがいちばんの損失なので、続く形まで下げる判断はためらわないようにしましょう。
ただし、計算問題でさえ手が止まってしまう場合は完全に学力が追い付いてない合図なので、対策を考えるようにしましょう。
学年別の付き合い方
4年生:習慣を作る学年。親が横につく価値がいちばん高い時期
この学年の目標は「毎朝、自分から机に向かう」を作ることです。内容はまだ易しく、5分前後で終わります。だからこそ、丸つけと解き直しの型をここで身につけておくと、5年以降が楽になります。
4年生で気をつけたいのは、簡単すぎて雑になることです。暗算で解けてしまうので、途中式を書かない癖がつきやすい時期でもあります。ここで「ノートに式を書く」「かかった時間を書く」という形を作っておくと、内容が重くなる5年生でも通用します。逆に、4年生の1年間を答えだけ書いて過ごすと、5年生で急に解けなくなります。
5年生:内容が急に重くなる学年。「捨てない工夫」が大事
5年は割合・速さ・比など抽象度の高い単元が続き、基礎トレも難しくなります。所要時間も10分前後まで伸びます。宿題も増えるため、基礎トレが後回しになって崩れるのがこの学年です。
朝の固定時間を死守し、間違いを記録して弱点のある単元を早めに見つけてください。5年の穴は放置すると、6年で倍以上の時間がサポートで必要になります。比と割合、速さは6年のほぼすべての単元の土台になるため、ここを飛ばして先に進んでも積み上がりません。忙しくて全部は無理という月は、一行問題を減らしてでも、比と割合に関わる問題だけは毎日触れる形にしましょう。
6年生:朝学習の軸として最後まで。入試の計算練習を兼ねる
6年後半は過去問や志望校対策が中心になりますが、基礎トレは朝の計算練習として最後まで続ける価値があります。所要時間は10〜15分まで伸び、一行問題も入試の水準に近づくため、実質的に毎日のミニ演習になります。
この時期に基礎トレをやめてしまうと、難しい問題ばかりを解いて計算の精度が落ちる、という状態になりがちです。入試で差がつくのは難問ではなく、取れるはずの問題を取り切れるかどうかです。入試本番の朝にも「いつもの10問」で頭を温められるのは、毎日続けてきた子だけの財産です。
基礎トレだけでは埋まらない穴もある
基礎トレは計算と一行問題の定着には優れていますが、単元の理解そのものを作る教材ではありません。一行問題は基本形なので、そこが解けても、入試で出る応用問題が解けるようになるわけではありません。基礎トレが満点なのにテストの後半で点が取れない、というのは珍しくない組み合わせです。
繰り返し間違える単元が見つかったら、ドリルの反復ではなくテキストに戻る、あるいは人に教わって理解し直す必要があります。ここを混同して「基礎トレをもっとやらせる」方向に進むと、時間だけを使って穴は残ります。基礎トレは穴を見つける装置、埋めるのは単元学習、という役割分担で考えてください。
算数の立て直しの考え方は算数が苦手な子でも着実に伸びる勉強法に、宿題全体が回らなくなったときの優先順位はサピックスの宿題が終わらない!αの子はどうしてる?にまとめています。授業についていけない状態が続いているなら、サピックスについていけないときに見直すポイントも参考にしてください。
まとめ
- 基礎トレは4年生から6年生まで毎月1冊。解法の反射化と学習習慣づくりが役割で、サピックスの授業の土台
- 数日かけて同じ問題が数字を変えて出る作り。初日に直しておけば翌日は解ける設計になっている
- 所要時間の目安は4年生5分前後、5年生10分前後、6年生10〜15分。学年で伸びるのは自然
- 効果を分けるのは間違い直し。丸つけ→その場で解き直しまでがワンセット
- 専用ノートに途中式まで書く。答えだけ書くと、間違いの原因がわからず、手を動かす習慣も育たない
- 時間帯は朝に固定。溜まったら追いつこうとせず今日の分から再開
- かかった時間と間違いを記録すると、点数だけでは見えない崩れと弱点単元が見える
- 単元理解の穴はドリルの反復では埋まらない。テキストに戻るか、人に教わる
よくある質問
基礎トレは1日何分くらいかけるのが普通ですか?
4年生で5分前後、5年生で10分前後、6年生で10〜15分あたりが目安です。学年が上がるほど問題が重くなるので、時間も自然に伸びます。この目安より時間がかかる場合は、量を減らしてでも毎日続くことを優先してください。逆にほぼ満点で目安より短く終わるなら、タイム短縮や途中式の丁寧さなど、負荷の方向を変えるとよいでしょう。
同じような問題が何日も続くのはなぜですか?
数日を1つのサイクルとして、同じ問題が数字を変えて繰り返し出る作りになっているためです(学年・時期によって変わります)。これは意図的な設計で、初日に解けなかった問題を数日かけて自分のものにするための仕組みです。だからこそ、初日に間違えた問題を放置したまま次の日に進むと、この設計が働かないまま1ヶ月が過ぎます。
基礎トレが溜まってしまいました。全部やるべきですか?
無理に消化しようとせず、今日の分から再開して溜まった分は捨てるほうが立て直しは早いです。基礎トレの価値は「毎日少しずつ」にあるので、まとめて解いても設計どおりの効果は出ません。再開のハードルを下げることを最優先にしてください。
毎日ほぼ満点です。やめてもいいですか?
やめるのはおすすめしません。計算の正確さは毎日計算をこなしていないと落ちますし、朝学習の起点としての役割もあります。満点が続くなら、タイムを計って短縮を目指す、途中式を丁寧に書く、暗算に頼っていた工程を書き出すなど、負荷の方向を変えて続けてください。
同じ種類の問題を何度も間違えます。どうすればいいですか?
それは計算ミスではなく、単元の理解不足なので、基礎トレの反復では克服できません。その単元だけテキストに戻って学び直すか、人に教わって理解し直してください。間違いの記録(問題の種類のメモ)をつけておくと、弱点のある単元を早期に特定できます。
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